2017年9月7日から11日まで、宮城県仙台市で「全国和牛能力共進会宮城大会」が行われた。5年に一度開催され「和牛のオリンピック」と言われているこの大会で、鹿児島県が総合優勝を飾り、宮崎県も肉牛において日本一、内閣総理大臣賞3連覇となった。
日頃丹精込めて育ててきた結果が実った瞬間である。関係者の皆さんには感無量だろう。「さら高みを狙いたい」という生産者の声も聞かれる。
消費者である私たちにとっても、生産者の皆さんのおかげでこれからも美味しい「宮崎牛」を食べることができるのは、この上ない幸せである。
しかしその4か月ほど前に、今や全国ブランドに成長した県産品に関して目を疑う、耳を疑うような事案が起きていた。
「食の安全が問われているというのに、行政は当事者意識が低くこのような状況で良いのでしょうか?」と情報提供者Aさんは憤る。
宮崎牛と同じくブランド化されている「みやざき地頭鶏」で問題が起きた。
□何が起きたのか?
事案は、2017年4月27日夜に起きた。
午後7時20分頃、Aさんら2人は、みやざき地頭鶏を味わえる店「宮崎県日南市じとっこ組合石山店」(滋賀県大津市)に来店し、カウンター席に通された。
午後7時30分頃、買い出しに出ていたと思われる男性店員が業務スーパーのビニール袋に入った鶏肉の生肉と思われるものをカウンター越しに調理場に渡した。しばらくの間、その袋がカウンターに置きっ放しだったのでAさんは不審に思い、女性店員に問いただした。女性店員が厨房に確認したところ、「フライドポテトです」との回答。
明らかに違うため、Aさんはさらに問い詰めると料理長のB氏より、「国産鶏です。だから全く問題なしです」との返答があった。
Aさんらは現物を間近で見ているので納得いかず、さらに問いただすと、店長のC氏が「チキン南蛮については、タイ産の鶏肉を使用している」と発言した。
このような店側の対応に対してAさんらは食事をすることなく退店。宮崎県日南市じとっこ組合を運営している株式会社エー・ピーカンパニー(以下、AP社)の責任者から連絡をするようにと依頼した。
□AP社からの回答
その後のAP社リスク管理部からの説明は以下の通りである。
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店舗から入手しました、レシートと現物の写真を、ご提出させていただきます。
当日、チキン南蛮に関しましては、予測以上の出数が有り、商品を切らすとお客様にご迷惑がかかると判断し、19時頃に料理長のBの指示により、アルバイトがバイクで業務スーパー大津見崎店へ行き、岡山県産の吉備高原鶏もも肉を1袋購入しております。外部での鶏肉の購入は初めてと申しておりました。
念の為、昨日私が業務スーパー大津見崎店に出向き、販売してる事を確認しました写真もご提出させて頂きます。
チキン南蛮の肉につきまして、外国産のブロイラーを使用し現在はタイ産を使用しております。メニューの表記に関しましては、みやざき地頭鶏と違うページに掲載し、店舗にてお客様からのご質問の際には、外国産である旨、ご回答しております。
A様への発言以外の部分で、従業員同士の会話を一部補足で、追記させて頂きます。
ホール女性スタッフが、A様の「業務スーパーの袋は何?」とのご質問に対し、料理長Bに聞きに行くと「もも肉」との回答を受ける。
ホール女性スタッフは、次に店長Cのもとに向かい、「もも肉って言いにくいので、フライドポテトって言っていいですか?」と質問すると、店長Cは安易に「いいよ」との回答。
店長Cが「いいよ」と指示した段階で、店長の責任としての発言と判断致します。ただし、料理長Bは店長Cとホール女性スタッフとの、この発言については、全く聞いておりません、と申しております。
料理長Bは、料理提供台越しに、「何ですか?肉が見えたんですけど」の(A様の)ご質問に関し、「チキン南蛮で使う肉です」と回答。「フライドポテトって聞いたんだけど」という(A様の)次のご質問に関し、全く心当たりがなく、フライドポテトともも肉が結びつかず、頭が混乱して、A様に冷静な回答ができないと思います、と申しております。
(料理長)Bは、「責任者のBです。私がフライドポテトと言うように伝えました、みやざきを看板にしている店なので、スーパーで買ってきた物だと、お客様がいやな気持ちになると思って、フライドポテトと言いました」との弁ですが、虚偽の回答に間違いございません。
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□何が問題なのか?
株式会社エー・ピーカンパニーが運営している「宮崎県日南市じとっこ組合」は、その名の通り、宮崎県日南市の「みやざき地頭鶏」を提供している店である。
その昔、美味しい地鶏を当時の地頭職に献上していたことが名前の由来とされる、天然記念物「地頭鶏」を原種鶏として、宮崎県畜産試験場川南支場で交雑種の開発に取り組み、平成10年に交配様式を確立し、平成16年に「みやざき地頭鶏」と名称を定めました。
と書かれている。
そして、
「みやざき地頭鶏」の普及・振興を図るため、生産者、消費者、関係機関からなる「みやざき地頭鶏普及促進協議会」を平成8年に設立し(平成24年からは「みやざき地頭鶏事業協同組合」に変更)、官民一体となった生産販売体制を整備しました。
みやざき地頭鶏という商品ブランドを確立させるため、当然、ブランドの認証基準がある。
■商品ブランド認証基準
(1)「みやざき地頭鶏」の地鶏肉であること
(2)「みやざき地頭鶏」生産指定農場で生産されたこと
(3)育すうを含めて全期間平飼い飼育
(4)飼育期間はおおむね雄4ヶ月、雌5ヶ月
(5)飼育密度は1平方メートル当たり2羽以下
■商品ブランド産地認定基準
(1)「県内全域」を対象とし、商品ブランド認証基準を満たしたものを「みやざき地頭鶏」として認証
(2)みやざき地頭鶏普及促進協議会に加入していること
(3)計画的な生産・出荷を行っていること
(4)品質管理、検査体制、クレ-ム処理等の出荷体制が確立していること
(5)生産管理の記録が整備されていること
みやざき地頭鶏は、平成19年3月31日にみやざきブランド推進本部より、商品ブランド産地認定を受けた。
このみやざき地頭鶏を味わえる店の1つが、AP社が運営する「宮崎県日南市じとっこ組合」である。
そのホームページにも、「宮崎でも限られた農家でしか生産が許されていない『幻の地鶏』」として紹介されている。
売れ筋メニューの1つに、今回問題となっている「チキン南蛮」がある。
チキン南蛮は、言わずと知れた宮崎のソウルフードである。その発祥説は2つあるが、どちらも宮崎県延岡市である。
タルタルソースを使わない、発祥説の1つである延岡市の「直ちゃん」のチキン南蛮は絶品である。
当然、宮崎県日南市じとっこ組合・石山店でも売れ筋メニューなのだが、ぐるなびのページには「自家製のタルタルソースをたっぷりふんだんに!!」と書かれているが、
『チキン南蛮はタイ産のブロイラーを使用しております』
もしくは
『宮崎県産以外の原材料を使用しております』
等のデメリット表記は書かれていない。
実際に店舗に足を運び、メニューを開いて、店員に質問しなければ答えないらしい。現実的にはいちいち質問する客はいないだろう。
AP社の文書を読むと、
『チキン南蛮の肉に関しましては、地頭鶏は固く仕上がる為、外国産のブロイラーの方が柔らかく美味しく仕上がると判断して使用しております』
とあるが、みやざき地頭鶏のチキン南蛮は、すでに商品化されている。
皮肉にも宮崎県日南市がふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」で販売している。
逆に言えば、
「みやざき地頭鶏のチキン南蛮はまずいんで外国産ブロイラーを使っています」
といことになるのだが。
客は、タイ産ブロイラーの食べるために、わざわざ「日南市じとっこ」と名称の入った店に足を運んでいるわけではない。
しかも、チキン南蛮の食材であるタイ産のブロイラーがなくなれば、近くの業務スーパーで岡山県産の吉備高原鶏もも肉を購入するらしい。4月27日が初めてだと証言しているが、料理人であればどこでどんな食材が調達できるかぐらいは分かっているはずである。アルバイトに指示するぐらいだから、常習化していたのではないだろうか?
そのことを隠すための店長の指示による「フライドポテト」の虚偽の産地説明も、いかがなものだろうか?
「本日は、チキン南蛮が好評のため、売り切れました。ありがとうございます」
で、良いのではないだろうか。
これが「みやざき地頭鶏」生産者の皆さんへのリスペクトと思いやりである。
□さて、日南市、宮崎県は?
情報提供者のAさんは、事案のあった翌日4月28、29日に日南市役所へ電話を入れている。29日の電話では、のらりくらりと対応していた市だが、Aさんからの厳しし指摘に慌てたAP社からも市に対して電話があったようで、日南市長にも今回の件は伝わった。
同じく宮崎県に対しても、AP社は宮崎県庁農業連携推進課みやざきブランド推進室、畜産振興課、みやざき地頭鶏事業協同組合へ報告している。
Aさんの記録によれば、5月12日の段階で、河野俊嗣宮崎県知事は、この件を知らされていない。
また、日南市及び宮崎県とも、今回の件に関する発表、会見は一切行われていない。
この件をどう処理したのだろうか?
いや、何もしなかったのではないのだろうか?
店名に「日南市」が入り、しかも、店舗のメニュー表に崎田恭平日南市長、河野俊嗣宮崎県知事の顔写真が掲載され、コメントまで寄せている。
「我々消費者の立場から見ると、両自治体の言わばお墨付きの飲食店ですね。現状では明らかな優良誤認だと思います」と、情報提供者のAさんは話す。
みやざきブランド「みやざき地頭鶏」が危うい状況になりかねない事態に、あえて動かないと判断したのだろうか?
その後、みやざき地頭鶏事業協同組合、宮崎県庁農業連携推進課みやざきブランド推進室に電話取材を行った。
みやざき地頭鶏事業協同組合では、「紛らわしい」との判断。宮崎県庁農業連携推進課みやざきブランド推進室は、情報提供者のAさんからの通報で、「食品表示法の適用外ということで、運営会社のエー・ピーカンパニーに対してすでにやりとりを行った」ということであった。
□マスコミの反応
みやざき地頭鶏のチキン南蛮を食べに来たはずが、タイ産のブロイラーを食べて帰った・・・
確かに調理され、自家製の自慢のタルタルソースで美味しかったに違いないだろうが、明らかに「ニセモノ」である。
しかも、ニセモノの食材が切れたら、近くの業務スーパーに買い出しに行く。
これは『どこの飲食店でも行われている日常的なこと』であれば、それは店側がうまく隠しているからだろう。
しかし、ここは「みやざき地頭鶏」という『みやざきブランド』の食材を売りにしている店である。
いわゆる「食材偽装」ではないかと疑わても仕方がないだろう。
スーパーに行けば、商品の裏側に必ず産地が記載されているが、店で提供されるチキン南蛮の皿には、食材の産地は書かれていない。法律的にも表記する義務はない。
マスコミは、「産地偽装だ!」と大騒ぎをするが、食べて食中毒などが起きなければ産地が違っても問題視しない、ということなのか?
そのような中、10月23日、JA全農兵庫直営のレストラン「神戸プレジール」本店(兵庫県神戸市中央区)において、「神戸牛フィレ肉」ではなく、「但馬牛フィレ肉」を提供していたことが起きた。
神戸プレジールがホームページ上で謝罪文を掲載している。
「本会は、生産者や関係者の皆様の長年のご努力により築き上げられた神戸牛ブランドを守り、さらに向上させていく立場にありながら、信用を大きく傷つけることになり、生産者や関係者の皆様に大変なご迷惑をおかけしましたことを深く反省し、重ねてお詫び申しあげます」
とあるように、食の信用に関わる重大な問題なのである。それは今回の「みやざき地頭鶏」でも同じである。
現時点で今回の問題を報道するマスコミはいない。
□その後のAP社の対応
今回、このような事案を起こしたAP社だが、Aさんに対して、今後の対応について説明している。
「このような不祥事」という認識はあるものの、AP社のホームページにはどこにも記載はない。あくまでも、Aさん個人に対する謝罪という認識だろう。であれば「不祥事」は使わない。
エー・ピーカンパニーの社長からもAさんに対して謝罪文が出されている。
この件から約半年経った2017年10月30日、運営会社であるエー・ピーカンパニーに取材を行った。
ホームページに代表電話番号の記載がなかったため、メールフォームから問い合わせた。その後、エー・ピーカンパニーのリスク管理部のU氏から電話をいただいた。
今回の「宮崎県日南市じとっこ組合」石山店で起きた問題に対して、消費者庁に出向き、メニューにおける表示について指導を受けたとのこと。
これまで通り、みやざき地頭鶏とは違うメニューのページにチキン南蛮を掲載し、
「『若鶏』で提供しています」
という一文を追加したとのことである。
U氏に対して、「その若鶏とは、どこの産地のものか?」を尋ねたところ、やはり、タイ産のブロイラーであるとの回答。
「なぜ、タイ産のブロイラーにこだわるのか?」という質問に対してU氏は、
「(タイ産のブロイラーが)圧倒的にやわらかくて美味しいから」
と回答した。これは客の声らしいのだが、そのことはメニューには書かれていないらしい。
続けてU氏は、「宮崎の郷土料理であるチキン南蛮を、直接複数のお店に出向いて調べて研究した結果、お客様に提供できる鶏肉として、タイ産のブロイラーにした」と、平気で話した。
宮崎産のブロイラーがあるにも関わらず、しかも、「みやざき地頭鶏、宮崎地鶏の専門店」という看板がありながら、半年経った現在もタイ産ブロイラーを提供している。
この状況に対して、前述したみやざき地頭鶏事業協同組合、宮崎県庁農業連携推進課みやざきブランド推進室は、「紛らわしい」と話している。
本当に、みやざき地頭鶏という地鶏を育てている農家の皆さんをリスペクトしているのだろうか?
運営会社の利益優先、コスト削減が優先されているようであれば大きな問題であり、この店舗にコメントを寄せた河野俊嗣宮崎県知事、崎田恭平日南市長もその責任が問われかねない。
引き続き、取材を続けていきたい。
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