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【宮崎県日向市発】土地所有者による「通行止め」に隠された過去の闇④~10年前に発覚した伊勢の郷不正経営事件~

 


2020年8月8日午前6時、通行止めの現場。


社会福祉法人博陽会(宮崎県日向市、金丸喜輝理事長、以下、博陽会)が運営する特別養護老人ホーム伊勢の郷(宮崎県日向市、以下、伊勢の郷)への進入路(西側取付道路)における通行止めが始まってから1週間。


8月1日の初日、伊勢の郷の職員48名、ショートステイ利用者6名、デイサービス利用者23名、伊勢の郷へ出入りしている8業者が、通行止めの影響を受けた。


入所者へ新聞や牛乳を配達している業者も影響を受けた。


伊勢の郷の施設長の話では、この西側取付道路は緊急車両も通行する。


「市道を通って北側取付道路へ迂回路すると約360メートルも長くなる。一刻も早く病院へ搬送するにしても 西側取付道路が利用できないのは不便で、問題があります。伊勢の郷に住所を移している利用者もいます。終の棲家としている利用者にとっては命をつなぐ道路、生活道路です」と理事長の金丸喜輝氏は話す。


「インドネシアからの実習生6名が来ています。日本で頑張ろうとしている彼女たちにも影響を与えています。考えられないことです」とも、金丸氏は話していた。


これは特別養護老人ホーム伊勢の郷ではなく、金丸氏への嫌がらせではないかと松本氏へ尋ねると、「金丸さんが交渉の場に出て来ない。逃げてばかりいる」と・・・。


成立した『和解調書』には、双方の代理人弁護士同士で話し合うことになっていて、当事者双方が出てきて話し合うことで、また新たな紛争が起きることを裁判所は危惧している。


金丸氏側の代理人弁護士冨永正一氏は、令和2年5月25日付けで、松本氏の代理人弁護士上野光典氏へ『ご連絡』という書面を送っている。


その書面によると、この日向市日知屋深溝615番の山林(991平方メートル)は、株式会社MERKYの所有名義で、別の方(A氏)が売買予約を原因として所有権移転請求の仮登記をしているとのこと。


日向市日知屋深溝615番は、今回、通行止めが行われている現場である。


なぜ、この土地が問題になっているのか、10年前に起きた件との関連があるので、後で述べることとする。


さて、この土地は先順位で株式会社福岡銀行が極度額2億4000万円の根抵当権設定の登記をしている。


そのため、博陽会としては福岡銀行の根抵当権付きのままで、


・株式会社MERKYと通行利用料を決めて契約する

・A氏から仮登記の権利一切を150万円で買い取る


との意向を示していた。


松本氏が冨永弁護士の事務所に訪れ、この件について、松本氏の代理人弁護士の上野光典氏に話して任せている状況であることが、この書面には書かれている。


ということは、少なくとも今年の5月頃は、この土地を巡る問題は、双方で2つの方向性を模索していたことが分かる。


その後、記事『【宮崎県日向市発】土地所有者による「通行止め」に隠された過去の闇① ~2020年8月1日、通行止め初日~』で書いたように、松本氏は『合意書(案)』なる書面を、金丸氏の代理人弁護士へ送った。

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松本弘志を甲、金丸喜輝を乙として、次の通り合意する。



1 乙は、甲が、平成14年、江藤紀美子とともに出資して社会福祉法人博陽会(旧称良純会)(以下、「社会福祉法人」という。)を設立したことを認める。


2 甲及び乙は、乙が、平成25年、甲より依頼を受けて社会福祉法人の経営に関与するに至り、現在、理事長(代表理事)として経営に携わっていることを確認する。


3 甲及び乙は、乙が現在社会福祉法人の鹿児島銀行に対する多額の債務について連帯保証をしていることを確認する。


4 甲は、乙に代わって社会福祉法人の理事長(代表理事)となりこれを経営する者(以下、「新経営者」という。)を乙に対して提案することとする。


5 第4項による新経営者の候補者は、第3項の鹿児島銀行に対する連帯保証債務を乙に代わって負担することを承諾している者であることを要するものとする。


6 乙は、第3項の鹿児島銀行に対する連帯保証債務を免れることが確実となることを条件として、第4項の新経営者の候補者が理事長(代表理事)となるように強力する。


7 第4項の新経営者は、社会福祉法人の理事長に就任したときに、第3項の鹿児島銀行に対する連帯保証債務負担し、乙はこれを免れるものとする。


8 特別養護老人ホーム伊勢の郷の西側通路の通行権に関する紛争については、第4項の新経営者の下で、社会福祉法人と甲との間の話し合いに基づいて解決するものとする。


9 甲及び乙は、本合意書の条項を誠実に実行し、本条項に定めのない事項が発生した場合には、誠実に話し合い、本条項の趣旨に従って解決することとする。


以上


令和2年  月  日


(住所省略)        松本弘志

       甲代理弁護士 上野光典

              金丸喜輝

       乙代理弁護士 冨永正一

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金丸氏側が提示した「株式会社MERKYと通行利用料を決めて契約する」または「A氏から仮登記の権利一切を150万円で買い取る」のではなく、この合意書(案)に応じてくれ、ということである。


合意書(案)の条項を解説するまでもなく、この書面、松本氏が代理人弁護士とともに作成したとは思えない内容である。


当然、金丸氏側が応じることはなく、今年6月23日付けで金丸氏側は交渉打ち切りの回答書を送っている。


そして7月3日、松本氏側は金丸氏側へ通行止めの通知を行い、7月17日に『ご連絡』と称する書面を通行止め現場に掲示し、現在に至っている。


ここで少し気になるのが、ここで登場する株式会社MERKYである。代表者が松本氏になっている。


会社の登記書類を確認すると、役員に関する事項に松本氏の名前はない。松本氏の家族が代表取締役である。


とすると、一連の書面に書かれている『株式会社MERKY 代表 松本弘志』と書かれている代表とは、何の代表なのだろうか。


現状、何の肩書も持たないので、勝手に付けたのだろうか。


平成29(2017)年6月、松本氏が日向市議会に出した社会福祉法人良純会(現博陽会)の健全運営確立に関する『陳情書』には、『良純会創業者元理事』という肩書を付けている。



〇市道ガードレール付近に新しい立て看板



松本氏が通行止めの現場に現れないので、北側取付道路に接続している市道に向かった。


すると、驚くべき光景が!




市道カーブのガードレール付近に新たに掲示板が追加されていた。そこには


「ご連絡。此処の点線内の敷地は社有地です!!(米の山通線) 特別養護老人ホーム伊勢の郷の迂回路ではありません!! ご注意ください!!!」


と書かれている。


そして、前回確認できた路面の白いペンキで描かれた点線が、道路のセンターライン付近にも追加されていた。





大丈夫なのだろうか。



〇日向市とも争う!?



真意を確認するため、土地の所有者である松本弘志氏を通行止めの現場で待った。


午前8時すぎ、松本氏が現れた。


「8月6日に日向市の担当課が、市道ガードレール近辺にやってきた。ここには私の土地でもあることを話した。新しい看板は昨日(記者注 8月7日)設置した。新しい点線も自分で付けた」と、松本氏が話した。


続けて、


「ここはしっかりと分筆(筆界特定)がされていない状況で、日向市が道路を通している。ここには私の土地もある。金丸氏が西側取付道路を通らずに、この市道を通って北側取付道路へ迂回路しろと職員に言っているのだろう。だから、ここは迂回路ではないと書いた」とも。


確かにここは、迂回路ではなく市道である。誰でも通行できる道路である。


ただ、将来的にはここも通行止めにするようなことも、松本氏は話している。


現状でそのようなことができるのだろうか?


ここは市道なので、今後、日向市と松本氏の間で何らかの話し合いが行われるのだろう。


それにしても、考え方が飛躍している。訳が分からない。



〇金丸氏が乗っ取った!?



話を松本氏と特別養護老人ホーム伊勢の郷のことに戻す。


どのような真意で言ったのか確認ができなかったが、松本氏は「金丸氏が特別養護老人ホーム伊勢の郷を『乗っ取った』ので、それを取り返すために、一連の行動を行っていると話していた。


前述した松本氏が市議会へ提出した陳情書の中で、


「理事評議員会の開会前に揃いの服装で身を固めた反社会勢力の一団と思われる男性9名が伊勢の郷に乱入。全員が2時間余りの会議中全く無言で周囲を威嚇して会場を封鎖。金丸君に反対する者の解雇人事等を強行。金丸評議員の暴力的議事進行であった。」(原文ママ)


「この場にて金丸喜輝氏自らも理事に就任良純会を乗っ取ったものです」(原文ママ)


と書いている。


しかし、取材の段階で、「金丸喜輝氏が強引に良純会を乗っ取った」とする他の資料は見当たらず、金丸氏は、


「社会福祉法人の運営に困っていた松本氏を助けるために参画した」


と話している。


このことは松本氏も上記の陳情書の中で、


「『金丸君お前なら政治家にも強く、押しが利くので』と評議員への就任をお願いしました」(原文ママ)


と書かれている。


伊勢の郷の創設者である松本氏に、いったい何が起きていたのか。


金丸氏はどのような立場で関わっていたのか。


すでに、松本氏と金丸氏双方で『和解』は成立している。


前回の記事『【宮崎県日向市発】土地所有者による「通行止め」に隠された過去の闇③~和解勧告と和解調書と土地所有者の行動~』で紹介した通りである。


なのに、松本氏の心の中では、まだ和解が成立していない、ということなのだろうか。


これは、過去の問題が絡んでいるのではないかと考え、松本氏に対して10年前に起きた事件のことを取り上げてもよいか尋ねた。


松本氏は怪訝そうな顔をされていた。


すでに報道された内容で、今さら新事実が出てくるようなことはないので、過去に何が起きていたのか、振り返ってみたい。



〇10年前に発覚した伊勢の郷不正経営事件



・日向市の社会福祉法人、前市議不正経営か、破綻危機、県監査で不明金判明(2010年8月8日付け宮崎日日新聞)

・日向の福祉法人不正、1億5000万円無断借金、前市議簿外処理、返済に裏金工面(2010年8月10日宮崎日日新聞)


・日向の福祉法人不正、1億円土地売買覚書、新旧経営陣、不透明な取引(2010年8月11日宮崎日日新聞)


・日向に福祉法人不正、借金引き金、違反連鎖 前市議と理事会なれ合い(2010年8月12日)


ちょうど、今から10年前、連日のように宮崎日日新聞に記事が掲載された。


10年前といえば、宮崎県で口蹄疫が発生して、終息へと向かう時期であった。


当時私は、口蹄疫にかかわるボランティア活動を行っていて、この記事は目にしたことはあったものの、取材することはなかった。ジャーナリストとして恥ずかしいことである。


これらの記事のタイトルには物々しい言葉が並んでいる。


当時、社会福祉法人良純会(現博陽会の前身)は、約10億円の負債を抱えていた。破綻する寸前まで追い込んだのが、今回の通行止めの主役である松本弘志氏である。


社会福祉法人良純会(現博陽会の前身)が運営する特別養護老人ホーム伊勢の郷は、2003(平成15)年4月1日に開設された。


取材する中で、金にまつわる多くの事案があったようだが、報道された記事による概略は以下の通りである。



当時、日向市議会議員であった松本氏は、家族が広大な土地を所有していたことなどから知人に誘われて、社会福祉法人良純会(現博陽会の前身)の理事に就任した。


松本氏は市議会議員であったため、理事長に就任することはできず、初代の理事長には、松本氏の姉が就任した。


松本氏は、一時期、伊勢の郷の施設長も兼任していた。『事実上のオーナーである』と、新聞も報じていた。


当時の日向市長とも関係が深く、市道と伊勢の郷を結ぶ取付道路を市の事業として整備するという約束を交わしていた。


しかし、選挙で市長が破れて交代したことで、取付道路の予算は白紙に戻った。


そこで松本氏は、理事会に無断で1億5000万円を帳簿外で借金し、道路整備に充てた。


伊勢の郷のオープンの2年後の平成17(2005)年には、有料老人ホーム「ひむかの郷」(宮崎県日向市)を開設したが、見込みに反して利用者が増えず、借金が膨れ上がっていった。


簿外処理した1億5000万円の返済のため、施設の給食材料費約2700万円から900万円を裏金として工面して財源をひねり出そうとしたが返済が滞り、差し押さえが介護報酬に及ぶ恐れがあった。


そのため、施設周辺の土地(約5000平方メートル)の購入を延岡市内の医療関連業者へ持ち掛け、売買契約の一時金3000万円を平成21(2009)年に受け取りながら、契約は履行されなかった。


良純会が一時金の返還に応じなかったため、この業者は同年11月末、伊勢の郷の建物の仮差し押さえを裁判所に申し立てた。


さらに、良純会はこの3000万円が入金された直後、そのうちの2800万円を金融業者等への借金返済に充てていた。


一連の動きは、実質的なオーナーであった松本氏が主導し、事前に必要な理事会の承認はなかった。


この不祥事が発覚後、3000万円は良純会が返還。建物の仮差し押さえは平成22(2010)年7月16日に取り下げられた。


債務は約10億円にまで膨れ上がってしまった。


しかし、これで終わりではなかった・・・。


不正経営発覚後の平成22(2010)年2月26日の理事会で新旧理事6人が交代し、松本氏は施設長を辞任した。


新しい理事の紹介で、良純会の代表に佐賀県の社会福祉法人の理事長が就任した。


が、その裏である覚書が結ばれていたのである。


松本氏や旧理事が撤退する条件として、伊勢の郷の周辺にある松本氏が経営する会社所有の土地(3300平方メートル)を1ヶ月以内に1億円で売買するというものであった。


この覚書には、松本氏と新理事長がそれぞれ署名、押印していた。


これとは別に借金返済が滞っていた良純会のために、新理事から同年3月17日に4000万円の入金があった。同年5月末の監事監査では、新理事長からの寄付金収入として処理された。


しかし実際は、4000万円を松本氏に負担させる借用書が別の理事との間で交わされていて、監事監査には嘘の報告をしていた。


新聞によれば、松本氏は理事の一人から「3年ぐらいしたら不祥事に伴う県監査のほとぼりも冷めるはずだから、いずれ良純会の経営を戻す。その時に4000万円を返済してくれればいい」などと言われて納得したようだ。


不正経営が発覚し、理事や施設長を辞めてもなお、立て直しを図ろうとする良純会に悪い影響を与えようとしていた松本氏。


平成24(2012)年7月に解雇されるまで、松本氏の親族4名が良純会で働いたり、理事として経営に関わったりなど、松本氏の言いなりで、なれ合い状態であったという。


当時の伊勢の郷の職員の証言として、「経費削減と言いながら、真夏にクーラーを1時間おきに止めて利用者に迷惑をかけていた」と、新聞記事に書かれていた。


〇温情が今回の引き金に?


平成16(2004)年11月、当時の社会福祉法人良純会は、事業設備資金として伊勢の郷周辺の土地を担保として、日向農業協同組合から2億1300万円のを金銭消費貸借契約を結んでいた。


松本氏の不正経営発覚後、伊勢の郷の正常化を進めるため、今回の問題となっている日向市日知屋深溝615番の山林(991平方メートル)も含めた周辺の土地を日向農業協同組合から買い戻した。


しかし、創設者である松本氏のことを考慮し、一部の土地、そう、今回問題となっている日向市日知屋深溝615番の山林は、松本氏側に渡した。


その後、その土地の一部に伊勢の郷への進入路(西側取付道路)の一部がかかっていたことが判明した。


令和2年2月26日、この土地を巡る所有権移転登記手続請求事件の控訴審判決で、松本氏側の所有権は確定した。


ただ、西側取付道路の一部がこの土地にかかっているのか、筆界が特定されていないため、現在、松本氏側、金丸氏側の双方で、土地家屋調査士による測量が行われている。

筆界が特定されていない中で、通行止めが行われているのである。


これまでの記事でも書いたが、松本氏と金丸氏は同級生である。お互いのことは良く知っている、はずである。


創設者である松本氏のこれまでのことを考えて、今回の土地を譲ったことでこのようなことになってしまった。温情があだとなったのだろうか。



〇社会福祉法人を私利私欲のために?



記事冒頭でも書いたが、伊勢の郷に住民票を移し、終の棲家として生活している利用者もいる。そのような利用者のことを考えていたのだろうか。


インドネシアからの実習生たちも、今回の往来妨害をどう思っているだろうか。


過去に市議会議員として、伊勢の郷の創設者として、理事として、施設長として、社会福祉に関わってきたのであれば、何をすべきなのか、自ずと分かるはずである。


それとも、社会福祉法人を自分の私利私欲のためだけに利用したということなのだろうか。


ここまで記事を読んだ読者の中には、「なぜ刑事事件にならなかったのか」と考える方もいらっしゃるだろう。


実は、刑事事件化したこともあった。


次回は、そのことについて取り上げてみたい。




(つづく)





【取材につきまして】

現在、宮崎県では、新型コロナウイルスに関する感染拡大緊急警報が発令されています。取材に当たっては、マスクを付け、取材対象者との距離をとるなどの感染拡大防止を行っています。

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