3日ほど、通行止めが行われている宮崎県日向市の特別養護老人ホーム伊勢の郷への進入路(西側取付道路)及び周辺市道、北側取付道路等を取材した。
その現場で幾度となく目にした『和解勧告』の文字。
土地所有者である松本弘志氏も、「和解勧告、和解調書を見てください」と話されていた。
しかし、この和解勧告及び和解調書を見れば見るほど、松本氏が行っている一連の行為が、この和解勧告及び和解調書に従ったものなのか、甚だ疑問である。
再度、この和解勧告及び和解調書の書面に書かれている和解内容について、確認したい。
その前に、ウィキペディアによると、和解契約が成立するためには、以下の要件を満たすことが必要である(民法695条)とのこと。
・当事者間に争いが存在すること(紛争性)
・当事者が互いに譲歩すること(互譲性)
・争いを解決する合意をすること(紛争終結の合意)
今回は、上記の要件を満たしている。
スムーズに和解させるために、事前に裁判所のほうで、「そろそろ和解しましょう」ということで、和解(案)をあらかじめ作成した『和解勧告』書を、当事者双方の代理人弁護士へ送付する。
その後、裁判所立会いのもとで、双方の当事者または代理人弁護士が和解(案)を基にして和解を成立させることになる。
今回の和解勧告の裁判所からの和解(案)は以下の通りである。
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1 被告らは、被告らは代理人及び原告ら代理人を通じるほかは、以下に定める行為を行わない。
(1) 原告博陽会の理事及び職員に対して、電話をかけ又は面会を要求すること。
(2) 原告金丸に対して、理事を辞めるように要求すること。
※期日で確認して頂いた内容です。
2 被告らは、伊勢の郷及びひむかの郷施設内に入る際は、一般の訪問者と同様の所定の方法に則る。
※期日で確認して頂いた内容です。
3 原告ら及び被告らは、原告博陽会の問題に関して話し合う際は、原告ら代理人及び被告ら代理人を通じて行うことを確認する。
※新たな紛争を予防する趣旨の条項です(これまで本人同士でやり取りをしてきたために紛争状態が悪化しているように見受けられるため。)。
4 被告らは、宮崎地方裁判所延岡支部平成27年(ワ)第121号所有権移転登記手続 請求事件の判決が確定するまでの間、法律上の手続きによらずに、伊勢の郷及びひむかの郷施設の通路を妨げることをしない(ただし、日向市大字日知屋深溝615番を除く)。
5 原告ら及び被告らは、被告らが、日向市大字日知屋深溝615番について、現在、通行妨害を行っていないことを確認し、被告らは、今後も妨害行為を行う意図を有するものではないことを約束する。
※4項及び5項は、期日で申し上げた内容です。
別件係争地については、判決が確定していないので形式的に対象外としますが(被告ら側が対象としても良いとお考えなのであれば、対象にするのが望ましいと考えます。)、松本さんが期日でおっしゃった、現在妨害行為をしておらず、今後も妨害行為を行うことをしないという被告らの意向を調書に残しておくことに意味があると考えられますので、上記表現にしました。
6 原告らは、その余の請求を放棄する。
7 訴訟費用、調停費用及び和解費用は、各自の負担とする。
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※印は裁判所側の補足事項である。
かなり具体的に書かれていることが分かる。
裁判所が危惧していることは、当事者同士では今後も紛争が続くことが予想できるので、被告である松本氏が、原告である金丸氏及び博陽会に対して、具体的な行動に出ることで、それを防ぐために、具体的に書かれていることが理解できる。
「松本さんが期日でおっしゃった、現在妨害行為をしておらず、今後も妨害行為を行うことをしないという被告らの意向を調書に残しておくことに意味があると考えられますので、上記表現にしました」と書かれているように、裁判所の強い意向が読み取れる。
この和解案を基にして当事者双方で話し合いが行われ、実際に成立した和解内容は、以下の通りである。
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1 原告ら及び被告らは、原告博陽会の問題に関して話し合う際は、原告ら代理人弁護士及び被告ら代理人弁護士を通じて今後必ず行うことを確認する。
2 被告らは、伊勢の郷及びひむかの郷施設内に立ち入る際は、一般の訪問者と同様の所定の方法に則る。
3 原告ら及び被告らは、社会的接触を持つ機会には、互いに節度を保持し、社会通念上相当な態度をもって臨むこととする。
4 原告らはその余の請求を放棄する。
5 訴訟費用及び調停費用は各自の負担とする。
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かなりスッキリとまとめられた感がある。
ここには、和解案にあった裁判所の強い意向は反映されていないが、双方の代理人弁護士は裁判所の強い意向は理解しているはずである。
裁判所の和解案にあった
「現在妨害行為をしておらず、今後も妨害行為を行うことをしないという被告らの意向」
は、成立した和解の第3項、
「原告ら及び被告らは、社会的接触を持つ機会には、互いに節度を保持し、社会通念上相当な態度をもって臨むこととする。」
に含まれると解釈しても良いだろう。
しかし、実際は、8月1日から妨害行為が行われているのだ。
和解も契約である。
民法第541条(債務不履行)によると、和解契約で定めた義務を当事者の一方が履行しない場合には、他方は催告のうえ和解契約を解除することが可能である。
今回の場合、裁判所が危惧していたような妨害行為が行われてしまったということ、妨害行為を強制執行でやめさせることができるだろう。
ただ、当事者が行うよりも、裁判所に通告したほうが良いかも知れない。
それにしても不可解なのが、土地所有者である松本弘志氏の行動である。
冒頭でも書いたが、現場で幾度となく目にした『和解勧告』の文字。
端的に言えば、
「松本さん、今もですが、これからも金丸さんや伊勢の郷さんへの妨害行為をやめてくださいね」
と裁判所から言われた(書かれた)ことを、堂々と貼っているのである。
自分が矛盾していることを行っている、とうことに気づいていないのだろうか。
それよりも、この和解を拡大解釈しているのだろうか?
不可解な行動は、市道カーブのガードレール付近に取り付けられた松本氏の登り旗及び掲示板付近でも行われていた。
通行止め初日の8月1日、松本氏とその仲間は、通行止め現場の西側取付道路だけではなく、この市道ガードレール近辺でも通行する車両の写真撮影を行っていた。
通行する車両の中に、日向市の職員がいて、その行動を不審に思った職員が尋ねたところ、撮影者はその場から去ったそうだ。
ここは市道である。
特別養護老人ホーム伊勢の郷関係者を撮影するつもりでも、市道では不特定多数の車両が通行する公道である。常識的には考えられない行動である。
その後日向市の担当課は、後日現場へ足を運び、状況を写真で撮影したとのこと。
和解の内容の一つである、「社会通念上相当な態度」なのかどうなのか・・・。
和解の話し合いは、双方の当事者ではなく、双方の代理人弁護士が出席したはずである。和解の内容も、当然、弁護士から聞き、納得しているはずである。
今回の一連の行動を代理人弁護士は知っているのであろうか?
8月2日の松本氏への取材では、「妨害行為にならないようにするために、道路の端から約1.8メートルほどあけている。このことは裁判所、弁護士から指導・助言があった」と説明していた。
そのことを、松本氏の代理人弁護士である上野光典氏へ確認すると、
「私はそのようなことは指導・助言していない。松本さんへは、やめなさいと言っている」
との回答であった。
松本氏の独断、暴走、ということなのだろうか。
インタビューで松本氏は、「社会通念上というけど、裁判所には裁判所の常識、私には私の常識、金丸さんには金丸さんの常識があるから・・・」と話していたが、自分の常識でこれらのことをやっているということだろう。
自信たっぷりに話す松本氏。
何か『闇』を感じとるのは、私だけだろうか。
コンテナの壁に貼られていた書面には、「この土地をめぐって社会福祉法人博陽会と6年もの期間争ってきました。が、この度高裁までいったのですが、判決が確定しました。代表理事金丸喜輝氏には7月3日に文書にて通知しております」と書かれていた。
いったい、過去に何が起きていたのか?
6年前、いや、この特別養護老人ホーム伊勢の郷が開設したころからの出来事を探ってみたい。
(つづく)
【取材につきまして】
現在、宮崎県では、新型コロナウイルスに関する感染拡大緊急警報が発令されています。取材に当たっては、マスクを付け、取材対象者との距離をとるなどの感染拡大防止を行っています。
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