2017年、YouTubeを巡る大きな問題と言えば、「広告」だろう。
□2017年3月
英タイムズ紙が、白人至上主義団体KKKやホロコーストを否定する牧師のSteven Anderson等の過激主義者のYouTube動画に、大手企業の広告が配信されていると報じたことがことの始まりである。
Googleは2017年3月17日、イギリスの内閣府に呼び出され、内務特別委員長から「極めて問題のある」活動を行っていると指摘された。さらに「Googleは著作権に問題のある動画はYouTubeから即座に削除しているが、憎悪や偏見に満ちたコンテンツを野放しにしている」と厳しい指摘を受けた。そしてイギリス政府は、軍の雇用や献血を呼びかける広告をすべてYouTubeから取り下げた。
この報道を受け、ブランドイメージが崩されるとし、世界6位の広告代理店ハバス(本社フランス)がYouTubeから広告を撤退することを発表した。
ハバスのイギリスオフィスでは、飲食業、航空産業の広告を取り扱っており、YouTubeへの広告出稿額は年間1億7500万ポンド(約240億円)である。
他にも、ロレアルパリ、マクドナルド、TOYOTA、HONDA、スターバックス、ペプシ等、250もの企業が撤退を発表した。
当然、日本もこの問題と無縁ではない。
YouTubeに動画を投稿してより多くの方に観て欲しいとするYouTubeクリエイターが多いなか、動画で金儲けをしたいと考える投稿者も少なくない。
この「YouTubeパートナープログラム」は、2009年頃から日本でも導入された。
当初は、YouTubeクリエイターの制作資金を捻出するために生まれたシステムなのだが、有名YouTuberの出現とYouTubeで金儲けができるという情報が流れ、再生回数が稼げるテレビ局等の番組やアニメ等が違法に転載されるケースが増えてきた。
YouTubeではスリーストライク制をとっていて、著作権侵害3回で、YouTubeのアカウントが停止され、その後、YouTubeにアカウントを作ることができなくなる。
それでも、違法転載動画は減ることはない。
すべては「収益」のためである。
□2017年4月
異変が起きたのは、2017年4月である。
これまでのYouTubeパートナープログラムが改正され、チャンネルの総視聴回数が10,000回以上あり、さらにYouTubeポリシーの審査を受けないと収益化できなくなった。
総視聴回数10,000回以上のチャンネルを広告を付ける対象としたのだ。
さらに、総視聴回数10,000回を超えていても、YouTubeパートナープログラムに参加してYouTubeのポリシー審査に合格しないと広告が付かない。
この変更による影響は今でも続いていて、「YouTube公式ヘルプフォーラム」では、「総視聴回数が10,000回超えてポリシー審査を受けているが、『審査中』のままで一向に終わらない」等とする質問が寄せられている。
さらに、混乱は続く。
□2017年8月
この収益化のポリシー変更により、アップロードした動画に「一部の広告主に適していない」が表示され、収益化の「グリーンマーク」から、一部で収益化できていない「イエローマーク」に変わることが頻繁に起こるようになった。
私のYouTube Live用のチャンネルは、Live終了後、アーカイブになったとたんに、このイエローマークが付くようになった。
もちろん、すべてオリジナルな動画なのだが・・・。
これもすべては、Googleの一連の対策の結果なのである。
この対策で、動画の収益が減ったのかどうなのか、私の場合は収益が少ないので分からないが、広告収入が減少したYouTubeクリエイターもいると聞く。
さらに、収益化ポリシーが変更されたのかどうか分からないが、「一部の広告主に適していない」が、「ほとんどの広告主に適していない」に変更された。
YouTubeでの説明にはこう書かれている。
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YouTube の判断が誤っていると思われ、チャンネル登録者数が 10,000 人を超えていれば再審査請求が可能です。この場合は視聴回数に関係なく、限定公開の動画を審査します。これは、長い順番待ちの中で、いち早く視聴回数を伸ばして収益化できるチャンネルの動画の順番が、視聴回数が少なくてあまり収益化できない動画の後にこないようにするためです。」
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しかし、チャンネル登録者数が10,000人に達していなくても、再審査リクエストは可能で、私の場合は数日でイエローマークからグリーンマークに戻った。
さらに2017年10月30日以降は、
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チャンネル登録者数が 10,000 人を超えていれば、視聴回数に関係なく限定公開の動画が審査されます。登録者数が 10,000 人に満たないチャンネルについては、現在のところ審査可能な動画は、過去 7 日間の視聴回数が 1,000 回以上の動画のみです。
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に変更されている。
ただし、オリジナル動画であれば、7日間の視聴回数が1,000回を超えていなくても、グリーンマークに戻ることもある。
しかし、機械的な審査で検知し、手動で最終審査をしているようだが、その人の手による最終審査も怪しいようだ。
このようにして、YouTubeの収益化にポリシーが揺れ動いているなか、さらに問題が起きた。
□2017年11月
2017年11月4日(米国時間)、The New York Timesが報じた。
子供向けに設計されたアプリ「YouTube Kids」で、不適切な動画をフィルタで排除しなかったということだ。
今回問題になったアプリ「YouTube Kids」は、YouTubeのファミリーフレンドリーなバージョンとして、2015年に開始された。日本では2017年5月に提供が開始されている。
The New York Timesの報道によると、YouTube Kidsのある動画では、ミニーマウスが恐怖に満ちた表情で、血だまりの中にいるミッキーマウスを見つめているというもの。
また、別の動画では、クレイメーション版(注:被写体を主に粘土を材料として作成されているアニメーション)のスパイダーマンが「アナと雪の女王」の王女エルサに放尿していたという。
これらの動画は、こどもたちにも人気の高いDisneyやMarvelのキャラクターを模倣したものだ。
YouTubeはそうしたコンテンツを「許容できない」とし、「そうしたコンテンツがはびこっているわけではない」と述べた。
YouTubeは。未成年者に関する対応の批判を受けて、現在、サイトの浄化に取り組んでいる。
今回の件を受けて、YouTubeは何百件ものアカウントを無効化し、15万本以上の動画を同プラットフォームから削除した、と広報担当者は声明で述べた。
さらに、YouTubeは子供を食い物にする人間の標的になった62万5000本以上の動画で、コメントを無効にした。
報道によると、今回の論争を受けて、AdidasやDeutsche Bankを含む複数の広告主がYouTubeから広告を引き上げたという。
またもやYouTube広告問題再燃である。
YouTubeは、家族向けを装っているにもかかわらず不適切なコンテンツを含む約200万本の動画と5万以上のチャンネルから広告を削除したことも明かした。
2017年11月22日(米国時間)、YouTubeは、子供をターゲットとする不快な動画や攻撃的な動画を取り締まるための十分な対策を講じていないとの批判を受け、家族向けのコンテンツに対する取り組みを「強化」する5つの計画を発表した。
1コミュニティーガイドラインのより厳格な適用、技術を利用して一層素早く実行すること
2家族をターゲットとする不適切な動画からの広告の削除
3未成年者が登場する動画に対する不適切なコメントのブロック
4家族向けコンテンツを作成するクリエイターに対するガイダンスの提供
5専門家との連携とそれに基づく学習
運動のような無害な活動を行う子どもが登場する動画に対し、視聴者による搾取目的または性的なコメントがあふれているという問題もあり、YouTubeは新ガイドラインで抑制を目指す。
□2017年12月
さらに、2017年12月4日(米国時間)、YouTubeは、同サイトのポリシーに違反するコンテンツを取り締まるため、人間のモデレーターを増員するとともに、機械学習の利用を拡大する計画を発表した。
YouTubeの最高経営責任者(CEO)を務めるSusan Wojcicki氏は、12月4日に公開したブログ記事で、
Googleは、コンテンツを確認する従業員数を2018年に1万人以上に増員する予定だ
と記した。
また、
この1年間で暴力的で過激なコンテンツに対処してきた中で学んだ教訓を、「問題のある」他のコンテンツに適用する
ともWojcicki氏は述べた。
そして、
われわれの目標は、悪質なユーザーの一歩先を行くことによって、ポリシーに違反するコンテンツがYouTubeに表示されたり削除されずに残ったりしにくくすることだ
とWojcicki氏はブログの記事に記している。
YouTubeは、子どもたちが映る動画に対して性的に不適切なコメントが付けられたことを理由に、ある広告主にボイコットされる騒動があり、今回の変更はそれを受けたもの。
またYouTubeは、人間のレビューアーを支援して、同サイトの規則に違反するアカウントやコメントを無効にするための機械学習アルゴリズムのトレーニングにも力を注ぐ。
人工知能(AI)の主要要素である機械学習によって、YouTubeは、6月以降15万件を超える暴力的で過激なコンテンツを含む動画を削除している。「手作業で行えば、週40時間勤務で18万人の人員を要する」作業だとWojcicki氏は述べた。
またWojcicki氏によると、YouTubeはサイト上の広告に対して「新しいアプローチ」を採用し、広告に適したチャンネルと動画を判断する予定だという。
その「新しいアプローチ」とは何なのか、今のところ分からないが、来年、2018年もYouTubeと広告を巡るある種の混乱は続くことになるだろう。
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