◇事件について分かっていること
2018年4月3日(米国時間)、カリフォルニア州北部のサンブルーノにあるYouTube本社で、女が銃を乱射して3人が負傷した事件で、地元の警察は、容疑者がサンディエゴ出身で30代後半の女、ナシーム・ナジャフィ・アグダムであることを明らかにしました。
容疑者が自殺を図ったことで、真相は闇の中ですが、これまでのニュース、地元警察の記者会見等の情報から、アグダム容疑者の動機が浮き彫りにされつつあります。
・YouTubeのポリシーとその実施に関して抱いた不満である(サンブルーノ警察エド・バーベリーニ署長)
・アグダムがYouTubeに腹を立てていたと考えています(前述、バーベリーニ署長)
・YouTubeに対する「憎悪」と「怒り」からユーチューブの本社に行くかもしれないと警察に相談していた(アグダムの父・イスマイルが地元紙『マーキュリー・ニュース』に語った)
・彼女はYouTubeが自分の人生を破滅させたと常に不満を漏らしていた(アグダムの兄弟シャーランが、地元紙『マーキュリー・ニュース』に語った)
4日夜、アグダムが銃撃犯であると確認されたあと、
・彼女がYouTubeに開設していた多数のチャンネルや、InstagramとFacebookのアカウントは削除された。
・彼女が「Nasime Sabz」といった別名を用いていた。
・彼女の個人ウェブサイトには、「YouTubeやその他の動画共有サイトには、閲覧数を増やすための公平な機会が与えられていない。公平な機会さえ与えられれば、チャンネルは成長するはずなのに」といった不満が書かれていた。
・また、YouTubeが自分のチャンネルを視聴できないようにフィルターをかけたとも指摘していた
・彼女のチャンネルの1つが1カ月に視聴回数30万回を超えたにもかかわらず、YouTubeから10セントしか受け取れなかったと不満を投稿していた。
・YouTubeが彼女の動画に年齢制限をかけた問題に執着していた。「この動画は視野が狭いYouTubeの社員のせいで年齢制限がかけられた。しかも、わたしのペルシャ語のチャンネルも制限されたし、動画はフィルタリングの対象になった。
視聴回数を減らして抑圧して、動画づくりができないようにしたのね!」と書かれていた。
以上のようなことが判明しているようです。
彼女のチャンネルには12,000人を超えるチャンネル登録者があったという情報もありますが、いずれにせよ、「YouTubeポリシー」への逆恨み的な犯行であることには間違いありません。
しかも、「銃」という暴力で行為に及んだことはアメリカ社会だけではなく、世界でYouTubeに関わっている多くの人々に衝撃を与えました。
あってはならない事件です。
◇YouTubeパートナープログラム
2016年以降、YouTubeを巡っては、一部の過激な人物(団体)の投稿による動画が問題となり、イギリス政府との対立、大手企業がスポンサーから離脱したこともあり、2017年4月、YouTubeパートナープログラム(YPP)は「総再生回数10,000回以上」のチャンネルに対して収益化を認めるように変更されました。
そして、誰もの記憶に新しい米国人気YouTuberによる富士樹海遺体動画投稿問題。
このことがきっかけに、YPPの基準が2018年2月20日から「過去12か月の総視聴時間4,000時間以上、チャンネル登録者数1,000人以上」に変更されました。
これらの変更は、ユーザーである、一部の動画投稿者の「マナーなき行動」が引き起こした結果です。この意味はとても大きいものがあります。
日本でも、未だにYPPの新基準の審査が終わらず、何か月も審査結果を待っている状況です。
某大手匿名掲示板には「YouTubeグレー動画 収益化スレ」なるものが立ち、そこで収益化に関する情報交換が行われています。
日本では実力行使に出ようとする動きはないものの、少しも進まないYouTubeの審査に対して苛立ちを覚えている人が少なくないのは現実です。ユーザーは冷静にならなければなりません。
◇コミュニティガイドライン
今回の事件で問題になっているのは、YouTubeのポリシーの1つである「コミュニティガイドライン」です。
アグダム容疑者がフィルタリングが行われていると主張していますが、現時点で彼女のすべての動画を観ることができないので、本当にフィルタリングが必要だったのかどうかは分かりません。
YouTubeでは、「性的なコンテンツ」「暴力的または不快なコンテンツ」「差別的または攻撃的なコンテンツ」「有害で危険な行為」「児童虐待」「テロリズムの助長」「スパムや誤解を招く動画」「権利の侵害」「字幕に関する問題」に抵触する動画について、年齢制限を付けたり、または、最悪、削除などの対応をとっています。
当然、年齢制限がかかった動画は、YPPの対象から外されます。
◇動画レポート
アグダム容疑者は、YouTubeのコミュニティガイドラインによる報告(動画レポート)を受けて、動画に年齢制限がかけられ、YPPの対象外になったと思われます。
では、いったい誰が「動画レポート」を行っているのか?
ということです。
動画レポートを受けて、最終的に動画に年齢制限をかけるか、動画を削除するかはYouTubeで行いますが、その動画レポートは誰でもYouTubeに送ることができます。
動画再生ページの動画プレーヤーの右端に「・・・」マークがあります。そこをクリックすると、一番上に「報告」が出てきます。そこをクリックします。
そうすると、「動画を報告」というダイアログボックスが表示され、先ほどコミュニティガイドラインで紹介しました9つの項目が表示されます。
該当する項目の先頭のラジオボタンをクリックすると、さらに詳細な項目を選択して、「次へ」をクリックします。
そこでは、なぜその動画がコミュニティガイドラインに抵触すると考えるのか、500文字で自由に記述するダイアログボックスが表示されます。
この記述がとても大切です。もちろん、嘘や憶測、なんとなくと言ったことは理由にはなりません。きちんと書かなければなりません。
ただし、記述も含めて難しいのは、「性的コンテンツ」です。
アグダム容疑者も「この動画のどこが性的コンテンツにあたるのか」と話していたようですが、いわゆる「肌色問題」と言われるものです。
動画で表示されている「肌の露出の割合はどのくらいなのか」ということです。この露出の割合をどうやって決めているのか分かりません。YouTubeもこのような細かなところまでは公表しないかと思われます。
ただ単に見た目がいやらしいから、ということでは年齢制限をかけるか、動画を削除するかの判断はできないようです。
私もYouTubeの「コントリビュータープログラム」に参加している1人として、長年、この動画レポートを行っていますが、最近の動画レポートの状況が変わってきつつあるなと感じています。ポリシーやガイドラインが変更になった、というわけではありません。
コントリビュータープログラムに参加すると、「ダッシュボード」という専用サイトで、3つの活動「字幕」「動画レポート」「ヘルプフォーラム」の状況を確認することができます。
動画レポートでは、自分が提出したレポートがどのように処理されたのかを確認することができますが、どうしてそのように処理されたのか、理由は付加されていません。ここが悩ましいところなのです。
先ほど述べました「肌色問題」の肌の露出とか、どうしてセーフなのかという理由は書かれていません。
ただ、なんとなく分かってきたことは、先ほど述べた「500文字で理由を書く」ことが重要であるということです。
最近エスカレーションした動画レポートの中で、肌の露出が全くなく、普段着で女性が延々(10~20分程度)とインタビューを受ける動画がありました。
「なんでこのような動画の視聴回数が多いのだろう?」と疑問に思って調べたところ、市販されているアダルトビデオの冒頭のインタビュー・シーンだけを抜き出して編集したものをYouTubeに投稿していたのです。
普通であれば「著作権侵害」で、著作権者がYouTubeに対して動画の削除依頼を行えば良いのですが、著作権侵害は親告罪です。
ましてやコミュニティガイドライン違反でレポートをエスカレーションしているので、500文字の理由をどう書けばよいのか、悩みました。
結果、「素直に書こう」ということで、この動画が市販されているアダルトビデオの冒頭のインタビュー部分を編集していることなどをきちんと説明しました。
著作権侵害でのレポートではなかったので、それらの動画が削除されることはなかったのですが、年齢制限はかけられました。
肌の露出が全くない動画でも、このようにして理由がしっかり書かれていれば、年齢制限がかけられるということが分かったことは、手探り状態で活動している私にとっては良かったです。
しかし一方で、肌の露出が多く、スポーツを取り扱っているにも関わらず、コメント欄には卑猥なコメントが並んでいるような動画には、年齢制限がかからないのです。きちんと理由を書いているにも関わらず、です。
このあたりは、直接、YouTubeの担当チームに、「どうなっているの?」と尋ねてみたいところですね。
◇動画投稿者には具体的な理由は開示されない
このようなカタチで、500字以内の理由書を付けて動画レポートをYouTubeにエスカレーションしていますが、YouTubeは動画投稿者には具体的な理由は開示していません。
皆さん、YouTubeの動画再生ページでたまに目にするかと思いますが、「この動画は、次の YouTube ポリシー違反のため削除されました: ヌードまたは性的なコンテンツの禁止」といったテンプレート的な文言だけです。これだけでは、納得しない動画投稿者が出てもおかしくはないかと思います。
仕事の効率化で詳細な理由までは添付できないということかもしれませんが、理由はテンプレートではなくきちんと伝えるべきではないかと思います。違反は明らかなものばかりではないので、動画投稿者が不満を持つ原因にもなりかねません。
「なぜこうなったのか?」
「なぜそうしたのか?」
それがきちんと理解できないと、アグダム容疑者のような動画投稿者がまた現れるかも知れません。
今回の事件を契機に、YouTube側もきちんと向き合うという姿勢が必要ではないかと思います。
それでも納得いかない動画投稿者がいることも考えられますが・・・。
◇たかがYouTube、されどYouTube
お金が絡んでいなかった頃のYouTubeは、まだ楽しかったですね。
12年もYouTubeで活動をしていると、実に様々なことを体験してきました。
たかがYouTube、されどYouTubeなんですよね。
YouTubeでのより良いコミュニティーを作っていくためには、何が必要なのか。
YPP(YouTubeパートナープログラム)を含めて、原点に戻って考え直すことも必要なのではないでしょうか。
今回の事件で被害に遭われました皆さんの一刻も早いご回復をお祈り申し上げます。
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