2018年8月8日、日本マクドナルドは期間限定で日本のうまいもん食べくらべ! 「ご当地グルメバーガー祭 2018」を始めた。
そのご当地グルメバーガーの一つに選ばれたのが、宮崎名物のチキン南蛮バーガーである。芸能人を使ったテレビコマーシャルを観た方も多いと思う。
マクドナルドの特設ページをみると、なぜか宮崎名物チキン南蛮バーガーだけ、『宮崎名物「チキン南蛮」を、タイ産鶏肉を使用してバーガーにしました』という表記がある。他の「名古屋名物みそカツバーガー」と「金沢名物黒カレーカツバーガー」には、そのような表記はない。
なぜだろうか?
◇塚田農場のこと
すでにご存知の方も多いかと思うが、2018年5月22日、消費者庁は、「みやざき地頭鶏」を売りにする居酒屋「塚田農場」で、商品の一部にブロイラーを使ったにもかかわらず、全てみやざき地頭鶏を使った料理であるかのように表示したのは景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、運営会社エー・ピーカンパニー(本社東京、以降AP社)に再発防止を求める措置命令を出した。
このニュースはたちまち地元でも広がり、同年6月20日、宮崎県議会商工建設常任委員会が開催され、エー・ピーカンパニー(以下、AP社)が運営する塚田農場の問題が議題に上がった。
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塚田農場のメニュー表示について、宮崎県は県民など3名からその違法性を指摘する情報提供を受けながらも、2017年12月、東京のアンテナショップ「新宿みやざき館KONNE」のレストラン運営をAP社に委託した。
委員がこの委託の経緯を県に質したところ、「この件に関してとくに疑問を抱かずに粛々と進めた」(県幹部)とのこと。
この取材を始めた昨年、私もこの違法性を指摘して県の担当部署に電話をかけたことがあるが、「とくに違法性は認められない」という回答を得ている。
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という問題にまで発展している。
まだ、塚田農場の問題がくすぶり続けているなかでの、今回のマクドナルドによる宮崎名物チキン南蛮バーガーの発売である。
消費者庁からの指摘を避けるため、塚田農場の二の舞いになることを避けるために、あえて『宮崎名物「チキン南蛮」を、タイ産鶏肉を使用してバーガーにしました』という表記を追加したのだろうか。
ちなみに、「名古屋名物みそカツバーガー」と「金沢名物黒カレーカツバーガー」に使用している豚肉はアメリカ、カナダ、デンマーク、フランス産であるが、そのことは表示されてはいない。
チキン南蛮の鶏肉だけが、タイ産であることを特別に表示しなければならない理由があるのだろうか。
◇名物と考案
宮崎には、夏に良く食べられている名物料理がある。
『冷や汁』である。
食堂やレストランのメニューに載ることもあるが、家庭料理として代々伝わっている家庭もある。私の家でもそうであった。夏には祖母が作る冷や汁が楽しみだった。
冷や汁というと、冷えた味噌汁にご飯をかけたものと思われがちだが、それは全く違う。冷や汁に入れる具材は家庭によって違うが、一つだけ同じことがある。
それは、「味噌を焦がす」こと。
すり鉢の内側の面に均一に味噌を塗り、それをコンロの上でひっくり返して焦がすのである。その味噌を使うのである。結構、手間のかかる料理であるが、その分、愛情たっぷりである。
昔はレシピなるものはなかったが、冷や汁の作り方は代々きちんと伝えられてきた。各家庭独自の味になるように考案され、レシピにも工夫が加えられてきた。
このように手間がかかる冷や汁が、レストランのメニューに載ることは少ないが、知る人は知る郷土料理である。
同じようにチキン南蛮も、鶏肉を扱う中で、パサパサする胸肉を捨てずに何か料理に生かすことはできないか、ということから生まれたのである。チキン南蛮という料理が『考案』されたのである。
同じ時期に同じようなことを考えていた人が、たまたま宮崎県延岡市に2人いたことから、2つの元祖チキン南蛮が誕生した。
一つはタルタルソースを使わないチキン南蛮、他方はタルタルソースを使うチキン南蛮。
どちらも独自に考案されたもので、私が言うまでもなく、宮崎の名物料理となった。
◇あえて使う『名物』とは
しかし、ここで気になるのが『名物』という言葉である。
ウィキペディアによると、名物とは、その土地の特産品など、地域特有の生産物や行事などで、人気があるもの、また売り物としているもの。料理は町おこしの為のご当地グルメも指す。
関あじ・関さばと言えば、大分県大分市の佐賀関であり、チャンポン・皿うどんは長崎、明太子は福岡、というように、地元穫れの特産物が名物となっている。宮崎でも『宮崎牛』『みやざき地頭鶏(じとっこ)』などが特産物で名物となっている。
少なくとも、地元の特産物を使った料理であり、それは地元を離れていても、食材さえ入手できれば、都会でも懐かしい故郷の料理を味わうことができる。
しかし、チキン南蛮はどちらかと言えば考案された料理であり、鶏肉さえあればレシピ通りに誰でも調理することができる。幻の地鶏と言われているみやざき地頭鶏を使わなくてもできるのである。
このことが塚田農場等を運営しているAP社では問題となった。
2017年4月27日、AP社が運営するみやざき地頭鶏を味わえる店「宮崎県日南市じとっこ組合石山店」で、チキン南蛮の食材が底を尽いたため、店員が近くの業務スーパーで岡山県産の吉備高原鶏もも肉を1袋購入した。それを食材として使おうとしたのである。
調理してしまえば、どこ産の鶏肉だろうと構わない、という発想である。
確かに味で誤魔化すことは可能だろう。現に、AP社ではみやざき地頭鶏を味わえる店と言いつつも、タイ産鶏肉を使っていた。
前述のように、AP社は消費者庁から行政処分を受けた。今年の5月である。
まだ、3か月しか経っていない中での、マクドナルドによる宮崎名物チキン南蛮バーガーの発売。
どうしてもこの『名物』の言葉が引っかかるのである。
◇チキン南蛮バーガーの味は?
実際に、この宮崎名物チキン南蛮バーガーを食べてみた。
私はいわゆるグルメではない。感想は個人の見解の域を出ないが、マクドナルド風の評価で言えば、「うまいけど・・・別もの!?」という評価である。
ちなみに、マクドナルドの特設サイトで、宮崎市内のレストランの社長と店長は、「まいった!もはや名店レベル」「やばい!ご当地グルメ認定」と評価している。
個人差があるかも知れないが、私は「チキンカツバーガーのような味わい」「南蛮漬けの風味がない」「タルタルソースの味わいがない」と感じた。
このバーガーを絶賛する人が多いのであれば、私の舌がおかしいのであろう。
『宮崎名物』と冠するレベルのものではなく、『宮崎考案』であれば、「あ、こんな味もありかな?」と思うのではないだろうか。
タイ産鶏肉を使っているからこのレベルの味しか出せない、ということではなく、タイ産鶏肉を使っていても塚田農場のように美味しくすることはできる。ただ、大量生産のハンバーガーとしては、限界があるのではないだろうか。
◇商品表示はこれで良いのか
今回、やはり気になるのは、宮崎名物チキン南蛮バーガーだけに付けられた
宮崎名物「チキン南蛮」を、タイ産鶏肉を使用してバーガーにしました
が、いったい何を意味しているのか、ということである。
宮崎名物「チキン南蛮」を、タイ産鶏肉を使用してバーガーにしました
が、いったい何を意味しているのか、ということである。
前述したように、「名古屋名物みそカツバーガー」と「金沢名物黒カレーカツバーガー」に使っている豚肉は名古屋産、金沢産ではなく、アメリカ、カナダ、デンマーク、フランス産である。
タイ産鶏肉に限っては、特別に表示しなければならないという決まりはどこにもない。摩訶不思議な対応としか言えない。
マクドナルドは、商品表示をどう考えているのだろうか?
『宮崎考案』であれば、単にレシピを考案し、それが全国に広がっていったわけで、どこ産の鶏肉を使おうが全く問題はないと考える。
ただ『宮崎名物』を名乗るのであれば、最低限、宮崎産のブロイラーを使って欲しかった、ということである。これは塚田農場の件でも書いたことである。
この宮崎名物チキン南蛮バーガーで、初めて『チキン南蛮』のことを知る消費者もいるだろう。そういう方々にとって、これを「宮崎名物」だと思い込んでしまうことは、とても不幸なことである。
宮崎には、まだ名物がある。次回はぜひ、『宮崎名物宮崎牛バーガー』をお願いしたい。もちろん、本物の『宮崎牛』で、である。
この件に関して、現在、日本マクドナルド社に問い合わせを行っている。何か動きがあれば、続編をご覧いただきたい。
【参考】
・弊社運営飲食店のメニュー表記に対する消費者庁の措置命令についてのお知らせとお詫び
・第8弾記事「ブラジル産チキン南蛮弁当&委託レストラン、続けます?」~宮崎のイメージ低下を招きかねない事態に宮崎県は~
・名物(ウィキペディア)
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