川南町、青森県十和田市、福島県矢吹町は、旧軍用地の開放によって行われた戦後の国営開墾事業で、その規模が大きく技術的な困難を克服して成功を収めた地域ということで「日本三大開拓地」と呼ばれている。川南町には全国各地から農業を志す人々が集まり、いつしか「川南合衆国」と呼ばれるようになった。畜産を中心に全国でも有数の農業生産量を誇っている。川南町は、このような先人たちのたくましい開拓精神を思い起こし、さらに発展するために「ニューフロンティア精神の町づくり」をめざしている。
手元にある資料、『図説宮崎県の農業2009』によると、08年度の宮崎県の牛の飼養頭数は31万3000頭(肉用牛29万5,400頭、乳用牛1万7,600頭)で、豚は90万600頭である。合計121万3600頭のうち、川南町には約15万4000頭の牛や豚がいる。08年と現在では飼養頭数は違うが、この半月あまりで川南町の約3万3000頭が殺処分された。実に20%を超える。
宮崎県からは、「口蹄疫確認農場及びその近隣農家や防疫作業現場周辺での取材は、本病のまん延を引き起こすおそれもあることから、厳に慎むとともに、生産者等の関係者が根拠のない噂などにより混乱することがないよう、御協力をお願いします」という通達が出されている。このこともあり、在京のマスコミは報道を自粛しているのかもしれない。
そこで、取材通達に従い、車を川南町役場へ走らせた。
国道10号の歩道のそばには、川南町名物の「トロントロン軽トラ市」の中止を告げる看板が立っていた。途中で、コンビニに寄った。あまり明るい顔をして店内に入るのはどうかと、周りを伺いながら店内に入ったが、心配は無用であった。そこには日常の空気が流れていた。
大型連休明けということもあり、中心部の人通りは少なかった。商店や畜産関係の建物の前には、消毒用の石灰がまかれていた。スーパーや商店も営業していて、日常の風景があったが、役場に近づくにつれて状況は変わっていった。
役場の駐車場に車をとめようとしたが、防疫作業にあたっている自衛隊の車両がとまっていた。近くの公園にも関係車両や「現地視察」との張り紙がされたバス数台が見られ、ほぼ満車状態であった。これに加えて、マスコミ関係の車両が入ってくれば町は混乱するだろう。
再度、車で役場前の通りに出ると、防疫作業を終えた自衛隊車両が役場の駐車場に入るため、交通が規制された。周囲に緊張感が漂った。役場での用を済ませた人たちも、心配そうにその様子を見つめていた。どこかに車をとめて話を聞きたかったが、取材通達に従いそのまま役場前を通り過ぎた。
ちょっと休憩がしたくて、海岸沿いを走っている日豊本線のJR
この間約30分程度であったが、いつもの川南町とは違う空気を感じた。これはただ事ではないとも。
防疫作業の様子を見ることはなかったが、私たちの見えないところで、実に多くの人たちが口蹄疫の撲滅に向けて各種作業を行っている。このような中で、在京のメディアがスクラムを組んでやって来てほしくないと感じた。
この大型連休期間中、ほとんどの民放キー局及びNHKはテレビの全国ニュースで口蹄疫のことを流さなかったが、報道の方法はいくらでもあるはずだ。考えてほしいものである。
さて、川南町は、戦後、国の開墾事業で全国各地から農業を志す人々が集まり、こつこつと努力を積み重ね、日本でも有数の畜産基地となった。川南町のみなさんがこれまで築き上げてきたことを、国がつぶしても良いのか。赤松広隆農水大臣の帰国を待つことなく、早急に有効な対策を打ってほしい。【了】
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